帚木蓬生(ははきぎ ほうせい)さんの「安楽病棟」
「安楽病棟」の前半は、痴呆病棟の患者たちが順々に独白していく、というストーリー展開。
中盤まではドキュメントタッチで、ミステリーとしての要素は低いです。
結末で、ミステリー的な部分が出てきますが、とってつけたような感じ。
けど、総合的な面白さの前ではどうでも良いことです。
分かりやすい文章と分かりやすい構成。
シンプルだけど、決して味気ない、という訳ではなく、根底には著者の経験と知性と人柄が滲み出ている感じがします。
著者は帚木蓬生さんで「ははきぎほうせい」と読みます。
精神科のドクターです。
「安楽病棟」は切なくて、悲しい
人間の一生とはなんなのか、考えさせられたりして、時折、ドキッとしました。
「回転焼き、オイシカッタネ」
とある老女が夫に言う台詞です。
老いて、痴呆も進んで、ろくに出歩くこともできなくなって、時々夫がお土産で買ってくる回転焼きが楽しみ。
若い頃から車に酔う体質で、遠出ができず、そして回転焼きというのはどこにでも売っているものではない、という理由もあるんですが。
かつて回転焼きを食べた記憶を思い出して「回転焼き、オイシカッタネ」
切ない。
老人にも若かりし頃があって(当たり前ですが)、人生を歩んできたんだ、と感じることのできる作品でした。